NPO 無痛無汗症の会「トゥモロウ」ホームページ

症状について〜ハンドブックより

無痛無汗症という病気をご存じですか?

 おそらく、ほとんどの先生がこの病気の子どもを担当するのは初めてのことでしょう。聞いたこともない病気の子どもが入園・入学してくると知って、不安と戸惑いを感じていらっしゃることと思います。
 この病気は読んで字のごとく、痛覚と汗のない病気です。でも、そのためにどんなことが起こるのかは、一緒に暮らしてみないと分からないことが多いのです。
 この病気の子どもたちは、体温調節ができません。また痛みや熱さ冷たさがわからないために、けが・骨折・やけど・骨髄炎などを繰り返すことがあります。こんなことを聞けば、恐ろしい大変な病気だと不安が募るのは当然のことかもしれません。しかし、実際に担当して1年過ぎる頃には、たいていの先生方はそれほど恐れることはないということを解って下さいます。

 とはいえ、親も先生方も無痛無汗症の子どもを目の前にし、初めてその病名を聞いてた時から病気の理解が始まるわけです。ブランコは大丈夫か、滑り台はどうしたらいいかに始まり、体育の授業は、体育祭は、遠足は、修学旅行はどうしようと悩みはつきません。何がどの程度できるかは、その子どものその時の状態によって違います。ただ、そこに人の手と目と心があれば、多くの子どもはたいていのことはできるものです。
 今回、無痛無汗症の会「トゥモロウ」では、会を支えてくださる医療および教育関係者の方々のお力添えで、無痛無汗症の子どもを担当する先生方に少しでもお役に立てるようにと、この小冊子をつくりました。無痛無汗症とはどのような病気か、どのようなトラブルが起こりやすいか、それを防ぐためにどう対処すればよいかなど、施設面だけでなく精神的な面からも、なるべく具体的な内容を中心にまとめてみました。まだまだ不備な点も多いと思いますが、先生方のご意見を頂いてさらに改善していきたいと思います。
 この子たちは、無痛無汗症という難病を持って生まれてきましたが、その笑顔の輝きは他の子どもたちと同じです。私たちは、この子どもたちが周囲の皆さんのご理解を得て、楽しく集団生活を送れるように心から願っています。
 このハンドブックをご理解の一助に活用していただき、稀少難病への理解の和が広がることを願ってやみません。
 
 1997年3月 無痛無汗症の会「トゥモロウ」


●無痛無汗症児の成長過程と障害

本症の患児は、痛みや熱さを感じない上に、知的障害をもつことが多いため、体を守ることが二重に難しく、容易に外傷を繰り返します。幼少時から成長につれて様々な障害がみられます。特に関節破壊の問題が大きく、運動機能を障害してしまいます。
 
 成長期以後の状態は把握できていませんが、トイレなどでは立つことができるように、運動機能を細く長く保つのがよりよいと考えられてきています。そのためには予防を重視して、多方面の関連する人々が協力して、総合的に長期的な観点から対応することが大切だと思われます。
 
 成長期毎の特徴を次にまとめてみました。
 
 □0〜1歳のころ
 原因不明の発熱や痛みに反応しないことにより、生後数カ月で診断されることが多くなってきています。発達の遅れもみられます。熱性けいれんも約半数にみられます。歯が生えるとそれが気になり、舌や指で歯を動かしたりこすったりするため、舌や指先を傷つけたり歯が抜けたりすることもあります。
 
 □2歳ごろ〜
 1歳半から2歳ごろまでに歩行を開始し、走り始めることが多いのですが、運動が激しくなるにつれ、転倒や飛び降りなどで外傷を生じたり、傷も多くなってきます。骨折や脱臼、あるいは捻挫で靭帯が伸びきってしまい、関節がぐらぐらになる場合があります。痛みがないため、そのまま走り回ったり飛び跳ねねたりして、症状を重くすることもあります。
 
 ギブスや装具の保護により、かえって無理な姿勢が生じ、患部以外のところに繰り返しの異常な負担が増加し、褥創など新たな損傷を引き起こすことがあります。また、ギブスの中でも患部を動かし安静が保ちづらく、骨癒合に時間がかかり、その間に骨や筋肉の萎縮を生じがちです。このことが新たな骨折の原因になることがあります。ギブスが外れ自由になると、嬉しくて飛び回り、萎縮して弱っている骨が折れてしまう危険性もあります。
 
 幼児期から学童期にかけて、骨折−治癒−骨折の悪循環に陥って、運動機能が急速に低下してしまう恐れがあります。この時期は自由に走り回ることへの願望が強く、一方で過敏で繊細な心をもつため、ストレスをためやすい状態にあります。
 
  □10歳ごろ〜
 この頃には多動が減り、小さな外傷は減る傾向にあります。シャルコー関節などにより歩行が困難となり、座位姿勢をとる時間が長くなります。体幹が柔らかく不良姿勢をとりやすいため、時に脊柱に関節障害(いわゆるシャルコースパイン)が生じて、脊髄を圧迫し、下肢の麻痺や膀胱直腸障害を起こすことがあります。